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10_8 初めての旅行 姫乃side

last update Last Updated: 2025-08-19 05:23:40

ふと目を覚ますと部屋は明るかった。もう朝なのかと起き上がろうとしたけれど、体に感じる重みで上手く動けない。なんだろうかと確認すると、隣に樹くんが寝ていて、私を抱きしめるかのように腰に手が回っていた。

樹くん……。

ふいに昨晩の甘い時間を思い出して、また体の芯がぶわっと疼き出す。やだもう、落ち着いて。

「おはよ。今何時?」

私がもぞもしていたから、樹くんを起こしてしまったみたいだ。手元の時計を確認すると――。

「やばっ。あと十五分で朝食の時間だよ。寝過ごしちゃった。私、顔洗ってくるね!」

慌てて布団から出て、乱れた浴衣のまま洗面台へ走った。水を掬おうと手をかざすと左手に違和感がある。

「え、なにこれ?」

顔も洗わず、大慌てで部屋へ戻る。

「樹くん!」

「どうしたの?」

「こ、これ」

私は左手を樹くんに差し出す。

薬指にはキラリと光る指輪がはまっていた。

「ああ、それ。姫乃さんにプレゼント」

「うそ……あ……、ありがとう。嬉しいっ」

初めて恋人から貰った指輪。

自分でするおしゃれリングとは全然違う。

嬉しさで胸がいっぱいになって、とたんに手が重みを増す。なんて尊いの……!

手をかざしてみると、ピンクダイヤが朝日を浴びてキラキラと輝いた。あまりの眩しさに、私は目を細める。嬉しい、私の左薬指に指輪……!

「嬉しいのはわかったけど、早くしないと時間」

「あっ!」

大慌てでバタバタ支度する私を、樹くんは余裕の表情でクスクス笑いながら見ていた。私だけが翻弄されている。でも、嬉しいからいい。本当に嬉しすぎる。
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